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◆痴人の愛◆

痴人の愛 (新潮文庫)

痴人の愛 (新潮文庫)



いまさら紹介するまでもない、谷崎潤一郎の代表作。
平凡なサラリーマン河合譲治が、カフェの女給をしていたナオミを自分の理想の妻に仕立て上げるため彼女を引き取り、同居を始める。
はじめは「どこに連れてもはずかしくない妻にしよう」としていたはずの譲治。しかしやがてナオミの美貌に魅せられ、彼の立場は徐々に支配するものから支配されるものへときれいに逆転していく…。


話の筋は至ってシンプルな堕落物語であるが、この経過の魅せ方が見事。
細かいことを語る必要はない。是非実際に読んでいただきたい。


が、ナオミについて語りたいので少し語る。
ナオミはファム・ファタール(*)の典型である。ナオミは自らの魅力を熟知しているし、かつそれを器用に生かして立ち回っていく。そんな彼女の手の上で転がされ、転落していく譲治を見ているとしごく愉快である。
ふたりの関係が逆転するまでに紆余曲折を経るわけだが、二十七節のナオミの「あたしの恐ろしいことが分った?」の問いかけとその応答により、二人の関係の逆転は完了する。1周目を読んだとき、そこで自分は大きな安堵を覚えて、終焉まで突き抜けた記憶がある(書いている現在、本書を読むのは2周目)。


ファム・ファタールのような物語においては、狂わされる男の世界に対して小さなカタストロフィを感じる。それがおそらく自らの美的感覚のどこかを刺激するから、素敵だと感じるのだと思う。それはデカダンス(頽廃)に感じる美と似通ったものなのかもしれない。
ただそれらに感じる美は常に倫理学との衝突が待ち受けている。これは永遠に和解されえないし、片方を潰すことも許されない。美学と倫理学の衝突というテーマも個人的には興味深いので、学問的にもこの物語は有意義である。



近代日本の妖女・悪女の先駆。もちろんもんくなしの↓
★★★★★

何度でも読みたい。谷崎の作品の中ではいちばんすき。


*仏:femme falate 直訳で「運命の女」。転じて、男を破滅させる魔性の女(悪女・妖女)を指す。また、そのような体裁をした文学のカテゴリ。